「タイタニックのクルーたち(chie's Titanic Officers)」豪華客船タイタニック(Titanic)の歴史、史実、乗組員、クルー、航海士(特にマードック航海士)機関士・設計士・通信士を紹介。自殺の謎、映画の中の航海士、コレクションなど。by智恵-ちえ-
タイタニック就航100周年  タイタニックのクルーたち
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◆謎3;エピローグ〜心の中のマードック◆

 

以上、ここで取り上げた証言や手紙はそれぞれ独立していてあくまでプライベートな存在であり、ゴシップ的なものはない。けれども、すべての証言が100%正確であるかどうかということは、今となっては確かめるすべがない。証言は互いに、ある部分では合致し、また一方では全く異なっている。
証言1と2により、イギリスタイタニック協会のリチャード・エドキンスらは、「マードックではありあない」としている。証言5をA号と推定した上で証言6と考え合わせて、ウォルター・ロードは死亡した三人の航海士のうち マードックが「最も近い候補者」としている。ジョージ・ベーエのマードック説と、ジェフ・ウィットフィールドのワイルドとする仮説に加え、もしかすると新たな説が登場するかもしれない。
しかし半世紀以上にわたっていろいろな研究者がこの「謎」をときあかそうとしたけれど、結局今のところ決定的な「解答」は得られていない。


この章を読んだ読者ひとりひとりの胸のうちに、どの証言、どの説がより真実味を帯びて心に残っただろうか。
私自身は、映画のマードックのシーンが悲しみとともに鮮明に心に焼き付いている一方で、実在のマードックの生涯を追っていくうちにまた別のイメージができあがっていった。それはボートデッキにまで海水が押し寄せてきて、加速的に船首から沈んでいったその瞬間まで懸命にロープを解きなんとかA号を発進させようとしている彼「最後の瞬間まで、職務を遂行すべくボートの準備に追われていたマードック」像である。けれども、仮に真実が(誰も知り得ない真実が)そうでないとしても、私の彼に対する敬愛の念は変わることがない。


あの日あの夜起こった異常な出来事、船首が浸水しはじめてパニックが頂点に達した時、ピストルを携えた航海士と、人々の間で何が起きたのか、何が起きなかったのか、想いをはせることはできても、誰も結論づけることはできないだろう。
しかし、ワイルドやマードック、ムーディーらが最後まで続けた努力によってA号は最後の大波がきた瞬間に浮かび上がり、結果として13名がこのボートにたどり着いた。同じくをB号も、ひっくり返った形で浮き上がり、この上に乗って約30人の乗客乗員が助かっている。これはまぎれもない事実である。


ニューファウンドランド島の北560キロ、水深3,798メートルの海底に、今は威厳を保ちながら静かに朽ち果ててゆくタイタニックの傍らで、どこかに眠る航海士たち。1500人以上の他の犠牲者達と共に、心から冥福を祈りたい。ミステリアスな死も、すべては母なる海のかなたに・・・

智恵 

 


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