「タイタニックのクルーたち(chie's Titanic Officers)」豪華客船タイタニック(Titanic)の歴史、史実、乗組員、クルー、航海士(特にマードック航海士)機関士・設計士・通信士を紹介。自殺の謎、映画の中の航海士、コレクションなど。by智恵-ちえ-
 タイタニックのクルーたち
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◆現在の航海士の仕事◆

 

航海士たちには、具体的にはどういう仕事があるのでしょうか?

現職の一等航海士さんから、お仕事について寄稿して頂きました。初心者にも分かり易いレポートになっています。阿呆鳥さん、ありがとうございました。

現在の仕事風景を通して、タイタニックの時代の航海士たちに想いを巡らせてみましょう。

 

1:概要
2:ワッチ(Watch)について
3:職制の由来など

 

1:概要

 「航海士のお仕事」についてですが、それぞれの職制により違うのですが、お答えしていきたいと思っております。
 
まず、今私は一等航海士という職務で乗船しますが、船の中では「チョッサー」と呼ばれています。一等航海士、英語ではChief officer(チーフ・オフィサー)、これが日本語訛りの船乗り用語で「チョッサー」です。前にもBBSに書きましたが、外国では「航海士」のことを「メイト(Mate)」と呼ぶこともあります。(日本でもそうですが)
 そもそもは船長(キャプテン)の仕事の上での友と言うことだそうです。船の上では、自分のことを「チーフ・メイト」と良く言います。例えば、電話に出たときなど「はい、チーフ・メイトです。」と答えるように・・。
 
 「ワッチ」はやはり「監視」と言うところから来ています。船橋(ブリッジ)では当直中は見張りが一番の仕事になりますからね。
正確にはWatchーkeepingです。
非番(ワッチ明けと言ってますが・・・)の時も、智恵さんが書かれている様にいろいろなディスクワークをしています。
 
 「航海日誌」(ログ・ブック Log Book)は各当直航海士が当直明けに自分の当直中のことを記載します。外航船では英語で記載しますが、内航船では日本語で記載することが多いようです。
 ログとは、丸太のことで、昔は船の速力を測るのに丸太を流し、ある距離を通過する時間から船の速力を求め、記録していました。それがログ・ブック、航海日誌の語源です。

 「Ship’s charts」、海図のことで海の地図です。これの更新をすると言うことは日本では海図の「改補」と言って、普通二等航海士が担当します。これをしないと浅瀬に乗り上げたり、ブイに衝突したりと事故にもなりかねません。これは必ずやらなければならない重要な仕事です。でも、結構大変なんですよ。

 「気温・水温」の測定、今では計測機器で行うことも多くなりましたが、基本的には温度計をみて測定します。水温は海水をバケツ(と言っても特製のものですが・・)ですくって測定しています。温度の変化や気圧の変化など気象の変化には「航海士」は敏感でなければなりません。(ちなみに天気予報で見かける天気図の陸以外のデータはみな、船からの観測の結果で作られているのですよ。)

日本でも大型船の「航海士」になるためには、今でも帆船の実習を経験しなければなりません。(帆船の日本丸、海王丸はそのために必要なのです。)
その実習の中から「風」を感じ、自然の変化を感じて自分のものにしなければならない訳です。それと「潮気」(しおけ、と言います)、海の波のスプレーを浴びて、肌から海の「潮気」をしみこませる、「潮気」のない航海士は、「航海士」でないと言っても過言でない位です。
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2:ワッチ(Watch)について

  
 [1:概要]で、「ワッチ」は監視から来ていると書きましたが、それ以外に「不眠」と言う訳からも由来しているようです。例えば、懐中時計をWATCHというのも、1日24時間休みなく眠りもせず動き続るからだそうです。航海士を含め、船の上では原則、4時間交代で1日2回ワッチに入ります。
 それぞれ入直する航海士は次のとおりです。

00〜04時 および 12〜16時  2/O
04〜08時 および 16〜20時 C/O
08〜12時 および 20〜24時 3/O

船の上では、風を感じるとお話しましたが、航海士は風に対して敏感であり、船の上を歩く場合も気を使います。船上を歩く際は常に「風下側を歩け!」と厳しく教育を受けます。風下側のことをLEE(リー)、風上側をWEATHER(ウェザー)と呼びます。なぜ、LEEを歩くかというと大航海時代からWEATHER側は波が当たり、さらわれることがあるため危険だからです。

航海士の仕事としては、いろいろあるのですが、今も昔も(そう、タイタニックの時代も・・)基本は変わっていません。

では、ワッチに入る航海士の内容を紹介しましょう。
  まずは、昼でも夜でも自分のワッチの10〜15分前にはブリッジに登橋します。これは夜間では真っ暗な船橋の中でも目を慣らすためです。夜間の船橋は必要最小限の明かり以外はほとんどついていません。見張りの邪魔になるから・・。(夜航海の船橋に行くと真っ暗でびっくりしますよ。)
 ブリッジに昇ったなら、前直の航海士から引継を受けます。現在の針路、速力、位置、周りの船の状況等々、自分が当直するのに必要な情報を前直の航海士から聞きます。それと並行してレーダ、コンパスなどの航海計器の状態を見たり、調節したりします。
交代時間が来れば前直が「それでは、お願いします。」と言って、次直が「もらいます。ありがとうございました。」と言って交代、「もらいます。」と言った時から責任の所在が移ります。

交代後は、基本は見張り、それと位置(ポジションなどと言っています)の確認、衝突しそうな船があれば、舵を使って避けたりしながら船を安全に運航していきます。
 

位置の確認は、コンパスで陸上の灯台や山、物標の方位を測ったり、レーダで映像の距離を測ったりして、海図(チャートでしたね。)の上で位置の確認をします。陸の見えない大洋では、GPS等の航海計器で位置を確認します。今はあまり「天測」は行われなくなりましたが、六分儀で星を見ながら位置の確認もしたりします。
 最近は椅子のある船橋も出てきましたが、基本は4時間立ちっぱなしです。

当直中の主な仕事はこれ以外に気象観測、積み荷の状態確認、航海灯の確認等々、一定の間隔で行います。周りが安全であれば、積み荷のリスト作成や入港書類の作成をすることもありますが、必ず5分位に1回は周りの状況を確認します。私はこんな時にウイングに出て、良く星を眺めるのが好きですね。晴天の日は、本当                         にきれいですよ。
そうしている内に4時間が過ぎ、交代の30分前位から次の当直航海士への引継の準備、航海日誌の記入などしていると次直の航海士が「おはようございます」(なぜか夜でもこの挨拶です。お水な職業です・・・。)と言ってブリッジに昇って来ます。そして、引継、交代「ねがいまぁ〜す。」

ざっと簡単(ではないか・・・)に当直を紹介しました。
  この繰り返しで次の港までひたすらワッチが続いていきます。
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3:職制の由来など

3章は船内の職制、つまり船内での階級の由来等についてです。

「航海士」のボス(船のボスでもありますが・・)は船長です。船長の称号にはマスター、キャプテン、スキッパーの三種類があります。マスターは管理船主(マンニング・オーナー)という意味もあって、商船に限られますが、キャプテンは海軍でも使われます。戦時の英国商船には海軍からキャプテンが派遣されることもあり、マスターとキャプテンが同乗する事もありました。この場合、作戦行動の責任者であるキャプテンの方がマスターより上位であることが多かったようです。現在の商船では公式の船長の称号はキャプテンの方が一般的です。スキッパーは比較的小さな船の船長を指すことが多いようです。

「航海士」は前にもお話しましたようにマスターの職務を補佐する役目からマスターズ・メイトと呼ばれ、船が大きくなりメイトの数が増えるとチーフ、ファースト、セカンド、サードと各職制が出来てきました。これら免状を持つ職員のほかに部員と呼ばれる乗組員がいます。これらの乗組員は古くはマスターの手という意味で「ハンズ」とも呼ばれていました。甲板長(ボースン)はロングボートの長という意味でBoat-swainと書き、甲板部の長でもあります。コーターマスターは先任当直員すなわち当直員または居住区のマスターということで現在の操舵手にあたります。
昔の屯営では全兵員の1/4が不寝番、つまり当直に立ったことからコーターはワッチと同じ意味を表しています。また、コーターには、居住区と言う意味もあります。セーラー(甲板員)は熟練セーラー(エイブルシーマン)、普通セーラー(オーディナリーシーマン)、見習いセーラー(ランドラバーまたはボーイ)の区別があり、それぞれに給料の差がありました。昔の航海士は、最初から免状をもって乗船するものと、セーラーから叩き上げてメイトになるものとがあり、「タイタニック」の時代にはこの叩き上げの航海士も多かったことでしょう。智恵さんの素晴らしいHP(タイタニック「航海士」の経歴のところ)を拝見させていただくと、あまりこの叩き上げの航海士はいなかったようですね。

また、航海士にも見習いがあり、これは「アプレンティス・オフィサー」と呼ばれ、昔は日本でも学校を出た後はこの「アプレンティス」として乗船していました。(今でも、外国ではこの「アプレンティス」制度が残っている国もあります。)日本では、「アプさん」(あぶさんは水島新二の漫画です・・、ちょっと古いか・・)と船内では呼ばれていました。
話は戻りますが、そのほかに船の中には木工(カーペンター)、製帆手(セール・メーカー)、桶工(クーパー)、調理人(コック)、給仕(スチュワード)、倉庫番(ストアキーパー)、医師(ドクター)などワッチのない乗組員は、直外員(アイドラーまたはデイマン)ということで当直員がシーマンとしての誇りを持っているのに対し、ランズマンという引け目を持っているのが、普通でした。
今でも、日本では木工(船匠、大工さん等と呼ばれています。)、調理人(調理手、コック、スチュワード)、船医(ドクター)等は残っていますが、一般の商船には少なく、練習船などに残っています。映画「タイタニック」のセリフの中にも、ほんといろいろ出てきますね。

さて、航海士の一等航海士ですが、チーフ・オフィサー(C/O)、ファースト・オフィサー(1/O)ですが、今では呼び名として残っているのは、航海訓練所の練習船くらいでしょう。書いているうちに長々となってしまいましたが、職制についてはこんな感じです。
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